大学に入った話

 悲劇が終わると現実が始まる。
 ぼくはとりあえずあの大学に落ちたという事実を受け入れて、腹を括って別の大学に進学した。曲がりなりにも大学生活を一度経験していると良いことがそれなりに有るんだ。例えば初回の授業には出なくて良いとか*1、無理に友達を作ろうとしない方が良い*2とか、そういう細かい身の振り方に関するライフハックは身に付けているから大学生活はだいぶ楽だった。––じゃあ幸せだったのかというとそんなことはなくて、大学に落ちるとか一浪とか友達が少ないとかそういう事実に関しては自虐のネタが増えるからむしろ美味しいくらいだけど、親や旧友からの信頼の失墜とか、不合格によって味わった敗北感とか、そういうのは結局3月から一向に回復しなくて、自意識の中でそれらと戦っていたらいつの間にか春学期が終わっていた。
 それでもあの経験が完全に無駄だったのかというとそういう訳でもなく、ちゃんと得られたものも少なからずあって、その内の一つが真面目に勉強する習慣だ。授業時間以外はずっと図書館に篭っていた。レポートも満足のいくフィードバックが得られたし、語学に関しても春学期の単位取得状況はおそらくそれなりだと思う。––ちなみにこの文章が書かれている時はまだ成績開示前で、もし成績が予想より悪かった場合、その都度この記事の文章は柔軟に改変される。具体的にはこの段落ごと抹消される。史料の改竄能力は古今東西あらゆる人文系にとっての必須スキルだ。

 

 

 

 20歳になった。だから今どうという訳でもなく、むしろ20歳になった今だからこそ14歳17歳の頃の自分を冷静に客観視できるような気がする。––やっぱり出来ない。このタイミングで嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんの新刊が出たのは何かの陰謀なんじゃないかと真剣に考えている。
 年齢を重ねると必然的に社会の足音が聞こえて来て、それにつれてたかがネット上の論争に過ぎなかった自分の属性に関するあらゆる宗教戦争に対して冷静な態度を取ることが段々難しくなってくるような気がする。暇さえあればツイッターで自分の属性キーワードを検索し、否定的な言説を眺め脳内でそれに対する複数通りの反駁をする(反駁したつもりになる)という一連の行動を取っていて、本当に無駄な時間だと思っているんだけどやめられない。自分の属性を信念に変えなければ生き残れない、社会の一員になるというのはそういうことなのだろうか。そこで、ぼくはできるだけ中立にいたいと思うけど、世の中には自分から望んで属性を増やそうとする人たちがいて、それはそれで大いに結構なことなんだけど、自分が信じる上でもっとも重要になる根拠があやふやなまま自分に何かの属性を追加しようとするともう目も当てられない。でも、一方で、そうすることで得られる連帯感と、それが生み出す多幸感は馬鹿にならないというのは重々承知している。連帯感。ぼくが今欲しいのはまさにそれなんだ。じゃあどうすればいい?

 

 

 

 話はまた大きく変わるんだけど、ツイッターをしてて本当に何も言うことが無くなってきた。基本的にぼくは頭の中に思い浮かんだものを推敲せずにそのままツイートするか、誰かが言ったことをそのまま受け売るしかなくて、ツイートしたくなるような感情が入学以降めっきり減ってしまってどうしようもなくなってる。思い切って、授業や読んだ本から得た知見をツイッターにもアウトプットする方針にしてみようかと思ったけど、そういう人扱いされることを考えるとやっぱりやめたくなる。かといって機知に富んだツイートをしようにもそもそもユーモアが死んでいてどうしようもない。
 ユーモア。大学には精神が死んでる人もやっぱりいて、でもユーモアさえ死んでなければそれなりに人も寄ってくるし承認だって得られてるような気がする。ぼくの場合はどうだろう。中高の時は嫌でもユーモアを鍛えさせられる環境にいたからほんの少しはエンタメ性のある人間になれてたような気がする。だけど、高校を出てしまえばあとは自分の力で勝負するしかない。そして、個性の発揮の仕方を間違えるとそこには闇より深い何かが待っている*3

 

 

 

 仕方がないから大学では真面目に勉強に励もうとするけど、しばらくすると自分のやりたいことがいまいちわかってないことに気付く。同様の悩みを抱えてる大学生は多分かなりいると思う。ぼくはかつて哲学をやりたいと考えていたけど、哲学書を読んでいくうちに何かが違うと思い始めて、そうこうしているうちに段々と哲学と宗教、文学との違いがよく分からなくなってきた。キリがなくなってきたから、高校の頃得意だった歴史*4でもやろうかと思うと周りの大人は「高校の歴史と大学の歴史学は違う」とか言い出して、もう訳が分からなくなってくる。
 本当はやりたいことなんてなくて、承認さえ満たせればなんでも良い気がしてくるけど、その気付きはあまりにも本質的過ぎて何も解決しない。
 救いが欲しい。救いが無い以上今ぼくに起きてるのは悲劇以外の何物でもない。はやく現実を始めさせて欲しい。

 

 

 

*1:後から知ったんですけど語学は初回から普通に出席取ってた

*2:どうせできない

*3:

激アツお化け屋敷@東大五月祭 (@obakeUT) | Twitter

*4:

https://twitter.com/_urasagi/status/836028802731929601